東京高等裁判所 昭和57年(く)163号 判決
所論は、要するに、被告人は、本件脅迫、銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件について、昭和五七年六月二三日懲役一〇月の実刑判決の言渡しを受けたが、身辺整理の都合もあり保釈の請求をしたところ、同月二八日罪証を隠滅し逃亡すると疑うに足りる理由があるとして右請求を却下されたけれども、本件被告事件に対しては既に判決の言渡しがあつたのであるから、最早や証拠を隠滅するということはありえないし、逃亡の疑いも必ずしも明らかでないことを考え合わせると、原決定が右のごとき理由で保釈請求を却下したのは明らかに不当であるというのである。
そこで、一件記録に基づいて検討するのに、本件勾留の基磯となつているのは銃砲刀剣類所持等取締法違反の事実であるが、被告人は右の事実につき徹底して犯意を否認しているのであつて、被告人の数多くの犯歴や平素の行状によつて窺うことのできるその規範意識の程度を考え合わせると、右の事実につき既に有罪の一審判決が宣告されているとはいえ、被告人が本件切出しナイフの携帯目的やその携帯の際の違法性の意識の有無について新たに証拠を作出して罪証を隠滅するおそれがないとはいえない。また、被告人は独身で結婚をしたこともなく、熊本県下に居住している両親や兄ともここ数年行き来がないという状態であつて、累犯前科の関係で刑の執行を猶予される可能性のないことや、被告人の規範意識の程度を考え合わせると、被告人が刑の執行を免れるため逃亡するおそれがないとも言い切れない。以上のほか、被告人が前に強盗罪で有罪の宣告を受けたことがあることなどを併せて考えると、本件保釈請求を却下した原決定がその裁量を誤つた不当なものということはできない。